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なぜ会社を変えようとする人が”カルト化〟してしまうのか

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「会社を変えよう」という志をもつ人々が、
なかなか変わらない組織のなかで〝カルト化〟していく。

こうして組織変革が頓挫する様を
『学習する組織』(ピーター・センゲ著 英治出版)のなかで、
著者のピーター・センゲ氏は指摘しています。
(〝カルト化〟は、ここでの私の表現です)

志も行動力もある変革推進者のリーダーシップが、
なぜ機能しなくなるのか。
やもするとそれは、
「古い体質を背負った会社が悪い」――ということになります。

しかしビル・トルバート氏(ハーバード大学元教授、組織開発の大家で
ピーター・センゲ氏の先輩にあたる)が提唱する
リーダーの発達段階ごとの行動論理によれば、
そこには周囲の変容を促すに至っていない
変革推進者自身の課題が横たわっています。

ごくごく簡単に説明すると、
大きな変容を志向する人は価値観や行動基準など
あらゆることを再定義していきます。

ですから職場の平均的な人々からみると、
変革推進者というのは、
理解しにくい〝変わった人〟に映ります。
そして変革推進者が少数ながらチーム化して力を得ると、
その存在は周囲にとって安全な世界を犯そうとする
特異な集団として、距離を置かれるようになっていきます。
職場と相いれない「再定義型リーダーシップチーム」は、
けっきょく組織全体を変革に導くことはできないのです。

トルバート氏は「再定義型」のリーダーが進む次の段階を、
「変容者型」と説明しています。

両者のちがいは非常に大きいことが、
トルバート氏のセミナーに参加して非常によくわかりました。

「再定義型」が変革を自明として自らの視点に立っている
(言い換えれば既存の構造の外に出ている)のに対し、
「変容者型」は対立する人々の視点を取り込み、重ね合わせ、
相互に影響を及ぼし合えるような関係性を築きます。

U理論を提唱するオットー・シャーマー氏がトルバート氏から学んだのも、
このあたりから、よくわかる人にはわかりますよね(笑)。

再定義の行動論理を乗り越えてこそ、
ようやく変革推進者たちはカルト化の危機を脱するのです。

ちなみに氏が説く7つの「行動論理」は次のとおりです。

========================================

機会獲得型―自己に有利な機会を見出し、結果のために手段を問わず行動する

外交官型―周囲の状況・既存の秩序に合わせて調和を重んじて行動する

専門家型―自己の論理・効率を重視し完璧を目指して行動する

達成者型―目標を掲げ、効果を得るのために他者を巻き込んで行動する

再定義型―戦略・手段・意図の一貫性を問いながら独創的に行動する

変容者型―相互性と自律性を好み、時宜を得て発達を促しながら行動する

アルケミスト型―意図を察知し直観的・タイムリーに他者の変容を促しながら行動する

========================================

あらためて、リーダーが自らを客観視することの大切さ、
その難しさを感じます。

一つ前のブログでもふれましたが、
トルバート氏は長年の研究から
「発達段階の進んだ行動論理をもつリーダーほどフィードバックを受け入れる」

ことも明らかにしています。

人の成長や組織の変革を促そうと思ったら、
まずリーダー自らが学び、成長しなければならない――

一般論としては当たり前のように繰り返し言われることを、
いかに具体的な論拠とノウハウをもって実践していくか。

ここに組織変革に携わる者としての大きな挑戦課題があることを、
あらためて痛感しています。

====================================

5月11日 14:30 - 17:30  ■主催 プロファイルズ社
自己認知を礎とする次世代リーダーシップ開発セミナー
<サーベイ×マインドフルネス×コーチング>
 の学習デザインと実践

フィードバックを活かすリーダーの器

『学習する組織』が説く5つの規律のひとつに
「メンタルモデル」があります。
かんたんに言えば、自分が持っている思考の枠組み。
誰にも枠組みはあり、
なければ物事の判断や意思決定が難しくなります。
したがってメンタルモデルは必要、
という言い方もできますが、
固定化されることで障害も起きてきます。

特に今のような変動の激しい社会、
ビジネス環境においては、
これまでの人生経験で形成されたメンタルモデルが、
誤った判断を促す危険性が高まっているといえるでしょう。

だからこそ自分がもっているメンタルモデルを自覚し、
どんな影響を自他に及ぼしているのかに気づくことが大切です。

先日、ビル・トルバート氏による
『アクション・インクワイアリー(行動探求)』
のワークショプに参加しました。

< 組織に及ぼす影響力の大きい経営者やマネジャーは、
忙しい日常の渦中においてメンタルモデルを観察できなければならない >

これは、ビルさんのワークショップで得た大きな学びの一つです。

あとからメンタルモデルに気づくことはできたとしても、
それは失敗のふりかえりでしかないかもしれません。
失敗したことは学びに変えていけばいいにせよ、
ビジネスの重要な局面では失敗自体が許されません。

だから上流部分の意思決定を担うリーダーは、
「行動しながら同時に探求できる人」でなけ
ればならないのです。

ビルさんは現在の組織学習論の先駆者である
クリス・アージリス氏に師事した方で、
『学習する組織』を世に広めたピーター・センゲ氏の先輩、
『U理論』の提唱者であるオットー・シャーマー氏を指導した人物。

ビルさんらによる30年来の実証研究にもとづく
人と組織の発達段階によれば、
ある一定の発達段階までは、
人は自分がもっているメンタルモデルに気づかないそうです。

この研究結果と重なり合うもうひとつの実証は、
同じような発達段階にある人は
他者からのフィードバックを求めない傾向にあること。
つまり自分の興味関心、目的や目標、方法論などを
前提にした行動論理が形成されていて、
そのことが組織の変容に必要な人々の相互性の開発を阻んでいるのです。

さて自分のことを考えてみると、
メンタルモデルの克服とアップデートには
2つのことが欠かせないと感じています。

ひとつは、嫌でもなんでも客観性の高い情報を得ること。
それが科学的で信頼に足るものであることがわかっていれば、
示されたフィードバックを無視することはできません。
ふたつめは、フィードバックを十分に活かす習慣をつくること。
その鍵になるのは、耳の痛い話も受け入れる心の柔らかさと、
改善できているか否かを日常的にキャッチする注意力です。

これらのことが組織開発や人材開発で広く認識されてきていることは、
前者についてはアセスメントへのニーズ拡大からもわかります。

ただしアセスメント(またはサーベイ)は両刃の剣で、
組織と被検者に合意形成がないと失敗します。
そもそも評価を下すためのものなのか、
個人の成長や組織とのより良い相互性を生み出していくためのものなのか。
そこも明確にする必要があるでしょう。

さらに考えなければならないのは、
いかに被検者がフィードバックを活かす器を養っていくかということ。
まだメンタルモデルに気づいておらず、
フィードバックを得ようとしない人の器を拡げることができるのか、という点です。

私自身も経験していることですが、
「どうせ嫌なことを指摘されるのだろう」――と思ったら、
抵抗を感じます。
そして実際に厳しい指摘を受けたら、さらに抵抗を感じます。
それが関係性の思わしくない相手からのフィードバックであれば、
なおさらのことでしょう。

しかし、この逆立つ感情を一歩引いて観ることさえできれば、
欲しくない(けれど必要な)情報が自分に入ってきます。
引いて観る(感じているとき)は、
脳のメカニズムとして、よけいな思考が休んでいるときだからです。
さまざまな考えに惑わされず、情報を受け取りやすくなります。

ですから「いま、心が反応しているな」ということに気づくことが大事です。

これはフィードバックに対する抵抗や反発が自動的に(無自覚なまま)
起きてくるまえに生まれている身体感覚――ムカッとくる、ザワザワする、
締めつけられる感じ・・・といった瞬間的な経験を、
しっかりつかむということです。

そのためには、ふだん見過ごしていることを注意深くとらえる
アテンショントレーニング(注意力を養うトレーニング)が有効です。
ある種の瞑想がビジネスパフォーマンスに好影響をもたらす可能性も、
こうした文脈からみていくことができます。

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◇プロファイルズ株式会社主催セミナー開催  2016年5月11日(水)
自己認識 (Self Awareness)――を礎とするリーダーシップ開発
科学的フィードバック×アテンショントレーニング×コーチングによって、
いかに継続的に次世代リーダー育成を進めていくか

社員はどんなときにコーチを求めるのか

ブログやウェブサイトの制作でお世話になっているチェリーさんから、私の仕事についてインタビューを受けて記事をまとめてもらいました。


誰でもできる? セルフアウェアネスを高 めるトレーニング

今回は【典生人語インタビュー企画】の33回目、「社員はどんなときにコーチを求めるのか」となります。聞き手担当は“典生人語事務局”のチェリーです。


■社員がコーチングを受けるシステム

 

チェリー: 経営者がコーチを求める動機は以前(30回目)にお聞きしました。それでは、社員の方はどんなタイミングでコーチを必要とするのでしょうか?

 

典生:コーチングが一般的になってきているので、社員がコーチングを希望するケースも増えてきています。個人契約している方もいますが、まずはスキルアップに関心の高い人、成長欲のある人が自己投資のために興味を持ちます。これからのキャリアを考えたい、タイムマネジメントをしたい、などみなさん意識が高いです。

 

チェリー:社員で自発的にコーチをつけようとする人は、相当、向上心が高い人ですね。

 

典生:あとは社内コーチのシステムができている会社だと、同じようにそれぞれのテーマでコーチをつけたいという話があがってきて、人事部経由で紹介されることがあります。

 

チェリー:具体的にはどんなプロセスでしょう。

 

典生:人事部の判断で該当社員に「コーチつけてみたら」と打診して、コーチと引き合わせるケースもありますし、社員から要望するパターンもああります。稀に人事抜きで直接コーチとやりとりしているケースもありますよ。まだ上手く機能させている企業はそんなに多くはないですが、少しずつ増えてきています。

 

■社員におけるアンコーチャブルな事例

 

チェリー:逆にアンコーチャブル以外で、コーチングが機能しない事例はありますか?

 

典生:ありますよ。コーチがクライアントの立場でコントロールできないものがテーマになっている場合です。そもそもゴール設定に無理があるのです。これはコーチ側のスキルが低いと、そういう誘導をしてしまう場合もあります。

 

チェリー:一社員ではどうにもならないこともありますからね…。

 

典生:そう例えば、「なんとか組織の風土を変えていきたい。しかし、世代や職位ごとの価値観のギャップが激しくて、実現が困難」などと言ったケース。これは経営者や役員、上級管理職が掲げるテーマであって、中堅以下の社員と直接的なコーチングのテーマとして扱うのは難しいですね。

 

チェリー:たしかに現場の人間が抱えている不満など、なかなか会社全体には反映されないですよね。

 

典生:そういう場合は、自分が影響力を及ぼせることは何で、無理なものは何なのか、ということの棚卸しが必要です。そこができていないと、コーチングによる良い効果は生まれません。

 

チェリー:他にコーチングが機能しないケースはありますか?

 

典生:あとは、社内コーチングで起きがちな現象があります。通常は、クライアント=スポンサーの図式ですよね。例えばオーナー社長じゃなくても役員レベルだと、会社のお金でコーチを受けても、身銭を切った自己投資として、主体的にコーチングを受けます。ただ中間管理職以下だと会社のお金に対する意識が全く違います。

 

チェリー:自分のお金という意識はなくなりますよね。

 

典生:そう、会社が出したお金で研修を受けさせられる、という受け身の意識になります。会社との同意が取れていない場合や、信頼関係がない場合には、コーチングが機能しません。お母さんに無理やり塾に生かされた子どもが成績を上げないのと同じです。

 

チェリー:分かりやすい例ですね(笑)。

 

典生:会社としては何を期待してコーチングを受けさせようとしているのか、個人としてはコーチングによりどうなっていきたいのか、そこにズレが生じている場合、目的を共有できない場合などは、もちろん上手くいきません。

 

チェリー:組織と個人の関係が上手く築けていないと、せっかくの投資が無駄になってしまいますね。

 

典生:企業組織自体がアンコーチャブルということもあります。会社の中に入って組織的にコーチングを実施することは、かなり複雑な作業なんです。 個人契約のパーソナルコーチングで、自分の意志だけで決められるようなことを扱う場合とは状況も方法もまた全然違いますから。

 

チェリー:本日は、日本の社員におけるコーチングの仕組みとコーチングが機能しない事例についてお聞きしました。

指示待ち社員はコーチングで変わるのか?

ブログやウェブサイトの制作でお世話になっているチェリーさんから、私の仕事についてインタビューを受けて記事をまとめてもらいました。


誰でもできる? セルフアウェアネスを高 めるトレーニング

今回は【典生人語インタビュー企画】の32回目、「指示待ち社員はコーチングで変わるのか?」となります。聞き手担当は“典生人語事務局”のチェリーです。


■「目的意識がない」ことに問題提起があるかどうか

 

チェリー:やはり目的意識がない人にコーチングは効かないのでしょうか?

 

典生:一概にそうは言えませんよ。例えば、「目的意識がない」という自覚があり、それに対して「何故なんだろう」と問題提起がある場合には、効果があることがあります。

 

チェリー:たしかに長い社会人生活で「何のために働いているんだろう」と目的意識が希薄になってしまっている人もいますよね。

 

典生:何かがきっかけになって、意識が変わることは十分ありうることです。ただ、完全にそういう問題提起に蓋をして、開き直ってる人はどうしても難しいでしょう。

 

■やる気があるビギナーとやる気のないミドルマネジメント

 

チェリー:俗に言う、「指示待ち社員」はコーチングで変わりますか?

 

典生:変わるケースもあります。指示待ち」といっても「やる気はあるけど何をしていいかわからない人」もいれば、何をすればいいか内心わかっているのに、やる気がない人もいるし、いろいろですからね。

 

チェリー:やる気がない「指示待ち社員」は論外ですね。

 

典生:様々な会社の中に入って見てきましたが、いまだに人が余っている、人材がダブついている組織がたくさんあるんですよ。人が余っているから「仕事を作るための仕事」が蔓延していて。あれが日本の会社をダメにする最大の要因だと思います。

 

チェリー:大手製造業者など、そういう話をよく聞きます。

 

典生:どの組織でも共通した構造があります。トップの経営陣は厳しい環境をくぐり抜けてきているので、やはり優秀な人材が多いです。現場は、現場でモチベーションが高い。そうすると、真ん中に人が余って機能していないケースが頻繁に見受けられます。

 

■各マネジメントレベルで必要なビジネススキル

 

チェリー:トップ、真ん中、現場でコーチングのスタイルも変わってくるのでしょうか?

 

典生:もちろんトレーニングメニューはそれぞれ異なります。テクニカルスキルはトップに行くほど、不必要になりますし。各スキルの必要性でよく引用されるカッツモデルはご存知ですか?

 

チェリー:初めて聞きました。

 

典生:ロバート・カッツが提唱している、マネジメントに必要とされるスキルの分布図です。各マネジメント段階において、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの重要度を図解しています。

 

https://jinjibu.jp/f_management/article/detl/outline/804/

 

チェリー:おもいしろいですね。とても分かりやすいです。

 

典生:経営者の能力がヒューマンスキルに偏ってしまい、コンセプチュアルスキルが鍛えられていないと、人情味あふれる判断が、本質的な判断の邪魔をしてしまい、組織の成長に支障が出て来てしまいます。

 

チェリー:コンセプチュアルスキルは天性の能力なのでしょうか?

 

典生:もともと得意な人もいるかと思いますが、コンセプチュアルスキルは思考の癖・習慣なので、訓練で鍛えることもできるんですよ。

 

チェリー:ミドルが崩壊しているケースでは、トップの人が下に降りていく繰り返しになるのでしょうか?

 

典生:いえ、ほとんどの企業は、ミドルを飛ばしてはいけないという考え方をしますから。日産が何故、カルロスゴーンによる組織の大手術ができたかというと、そこにしがらみがなかったからです。それまでは同じ釜の飯を食った仲間を、重要なポジションから外すことがなかなかできなかった、という事情がありました。

 

■「自己認知」(セルフアウェアネス)の重要性

 

チェリー:各マネジメントで共通しているコーチングのポイントはありますか?

 

典生:コーチングでいちばん重要なことは「自己認知」(セルフアウェアネス)ですね。それをサポートすることが重要です。

 

チェリー:自分を客観的に見ることができれば、足りないものやバランスを崩したものを知れる、ということですね。

 

典生:その通りです。自分を見ようとしないと、コーチングは全く機能しません。

 

■企業内でのコーチの育成

 

チェリー:コーチを企業の中に育成することはできるのですか?

 

典生:よくやっていますよ。企業内コーチといっても専任ではなく、他に業務を持つ人が兼任しているのが通常です。

 

チェリー:コーチになれる適性は、どこで判断しますか?

 

典生:まず業務自体でしっかり実績を上げて周囲に認められていることが前提ですね。そうでなければ社内で信用されませんから。それと同時に、人望の厚さとか、そのポテンシャルなども考慮されると思います。それぞれ企業としての判断があると思いますが。

 

チェリー:本日は、指示待ち社員に対するコーチングから始まって、各マネジメントにおける必要スキルついてのお話を中心に伺いました。

コーチングによる経営者の変化

ブログやウェブサイトの制作でお世話になっているチェリーさんから、私の仕事についてインタビューを受けて記事をまとめてもらいました。


誰でもできる? セルフアウェアネスを高 めるトレーニング

今回は【典生人語インタビュー企画】の31回目、「コーチングによる経営者の変化」となります。聞き手担当は“典生人語事務局”のチェリーです。


■コーチングによる経営者の変化は十人十色

 

チェリー:コーチングによって経営者は具体的にどう変化していきますか?

 

典生:それが本当に様々で…、一概に言えないんですよね。

 

チェリー:なるほど。それでは相談の段階では、ある程度の共通項があるのでしょうか?

 

典生:自分の著書の内容に影響を受けた人からの相談は、共通している部分があります。その中にある「どうやって部下を育てるか?」「どういう立ち位置で対人関係を築くか」、「チーム作りのノウハウ」などはよく相談されます。

 

チェリー:私も何冊か読みましたが、経営者の方には評判ですよね。

 

典生:あとは幼少期の体験など、何か執着してブレーキをかけているものが、現在のマインドに影響していることもよくあります。コーチに相談するきっかけは似ていても、その後の展開は、十人十色。それぞれの状況に合わせてコーチングを実践しています。

 

チェリー:もし差し支えなければ、実際にコーチングで変化した経営者の方のお話を例に聞かせていただけませんか?

 

典生:分かりました。それではとある大手アパレル会社の経営者のお話をしましょう。

 

■自分の役割を見失ったアパレル社長の気づき

 

典生:突然、オフィスにかかってきた一本の電話がきっかけでした。当時、「宝島」という雑誌に出していた私のコメントを読んだらしく、「コーチングを受けたいんですけど」と単刀直入に切り出されまして。聞いてみると、その動機のひとつに差し迫った悩みがあったようです。

 

チェリー:そのコメントがすごく刺さったんですね。

 

典生:彼の悩みは「自分の役割が見えない」というものでした。脱サラして自分で立ち上げた事業が、既に全国展開する規模に成長しはじめていたんです。事業部の管理を任せられるナンバー2やナンバー3が立派に育ってきており、いくつかのブランドをまとめる担当者もいました。

 

チェリー:会社としては順風満帆に聞こえますが…。

 

典生:そう、端から見ればうらやましいような、組織らしい組織になってきていたんです。ただ全ては彼が始めて、彼が担当していたことで、だから任せられる部下ができた今、「自分の役割が見えない」というのでした。

 

チェリー:なるほど、上手くいっていても悩みは尽きないものですね…。

 

典生:そこで、「これまでどういうことをやってきたんですか?」と訊くと、創業当初からのたくさんの苦労話を聞かせてくれました。やっと入れたテナントで自ら店頭に出て、ハイティーンの女の子向けブランドで女子高生相手に接客していたそうなんです。その人は見るからに極真空手でもやっていそうな(笑)、ミスマッチな風貌なんですよ。

 

チェリー:たしかに店員さんと商品が合ってないと、オススメされてもピンと来ません(笑)。

 

典生:もちろん接客は苦戦したようですが、そのうち、「これじゃいかん」と思い立ち、若い女性店員に接客させて、自分は裏方に回ったりもしたようです。試行錯誤を繰り返して会社を大きくしていった彼のカンパニーストーリーは、とても聞き応えがありました。

 

チェリー:他にもいろんな苦労したエピソードがあったかと思います…。

 

典生:一通り、彼の話を聞き終わって、今度は私から尋ねてみました。「これで完成ですか?」と。そうすると彼は、「いや、ちがいます」と言うんです。「この次はどうなったらいいんですか?」と訊いたら、彼はこう答えました。「それぞれのブランドがひとつの会社になり、ホールディングになり、自立していく」と。

 

チェリー:見えていなかった目的意識を引き出したわけですね。

 

典生:そこで、「もう大丈夫なんじゃないですか?」とあえて訊いてみたんです。すると、「違うんだ、任せられない」と即座に返答がありました。その理由を詳しく聞いてみると、「業務を任せることはできるが、彼らに組織を作っていくことはできない」というもので、「今それができるのは自分しかいない」と言い放って、その社長は気づいたんです。

 

チェリー:すごい。ひとつ答えが出てしまいました。

 

典生:彼はそれまでずっと、業務ができる人材を育ててきたのですが、組織を作る人材を育てる、という発想がなかったのです。自分の仕事が、組織幹部の人材育成だと気付いた彼は、それから「自分の役割」を見い出し、また会社を成長させていったのです。

 

■「自分の役割」に目を向けさせるファーストコンタクト

 

典生:長い話になりましたが、この話は初対面で契約する前の話です。この一回のセッションで彼は自分の役割に気づき、その後、正式にコーチとして契約しました。コーチングが成果を生み出した経営者のひとりで、今でも付き合いがあるんですよ。

 

チェリー:とてもためになる良い話でした。ちなみに契約後は具体的にどういったコーチングの内容だったんでしょうか?

 

典生:契約してからは、具体的に組織のリーダーになってほしい人の強みや弱みを棚卸しして、ひとりひとりの力点ポイントを整理していくことを行っていきました。ファーストコンタクトでの気づきを、より実践的にサポートしていった感じでしたね。

 

チェリー:もちろん、契約後のコーチングも充実していたと思うのですが、ファーストコンタクトでこれほどの効果があるなんて、正直びっくりしました。

 

典生:例に出した社長は、コーチャビリティがしっかりと備わっていた、ということは言えますね。コーチャビリティのある人は今回の社長に限らず、「自分の役割に目が向くか」ということ。バックグラウンドがそれぞれ違っていても、基本はその姿勢がないと、次の具体的なアクションの話にはならないですからね。

 

チェリー:なるほど。初回に、「自分の役割」に目を向けさせる面談を行うということですね。

 

■経営者におけるオープンマインドの必要性

 

典生:自分の役割をしっかり掘り下げて認識するには、やはりマインドがオープンでないとスムーズにはいきません。例えば…、「部下を成長させたい」ということはどの経営者も言うのですが、「そのためのあなたの役割はなんですか?」と問うと、あいまいな答えになってしまうことがよくあります。

 

チェリー:たしかに「部下にとっての自分の役割」を常に意識している経営者は少ないかもしれないですね。

 

典生:そうなんです。本当はもっと自分の弱みを開示して、腹を割って話をする姿勢が大切なのに、なかなかオープンになれない経営者が多いですよね。上に立つ人間こそ、相手の立場に降りて行って、信頼関係を作っていくことが求められているはずなんです。

 

チェリー:「自分の役割」に気づくためには、まずは自分から心を開くことが必要不可欠ということですね。

 

典生:みなさん、頭ではそれらしきことを考えてはいるんですけど…、覚悟を決めて行動に移せないケースもよく目にします。そういう人はどうしても、アンコーチャブルということになってしまいます。「本当の役割」を自覚するのは簡単なことではありません。

 

チェリー:「自分の役割」に気付いた経営者は、もしかしたら自分より優秀な人を雇ったほうが良い、と考える人もいるのでしょうか?

 

典生:評価されている経営者はそのことを常に意識していると言われていますね。自分の限界を受け入れて、自分のやるべきことを認識し直すことは経営者として大切な視点です。ここまでの考えに至るのはなかなか難しいことですよね。

 

■コーチングをより充実させるための組織開発の重要性

 

チェリー:そういう話になってくると、コーチングだけではカバーしきれないケースも出てくるような気がして来るのですが…。

 

典生:コーチングでカバーしきれないケースとしては、そもそも採用や人材配置にミスマッチがあるケースが多いんですよ。このことは、私もコーチングを始めた頃に頻繁にぶち当たった壁です。人情だけで能力の劣る人材を上層部に配置したりすると、マルチタスクで頭がまわらなくなってしまいます。

 

チェリー:昔ながらの会社には、よくありそうな光景です…。

 

典生:昔は自分の経験値が少なかったので、そういう方々のコーチングも意気込んで担当していました。しかし、配置が違うとやはり思ったような結果に至りません。コーチングの前に、適正な組織作りを実践して、適材適所に人材配置をした上でないと、コーチングも十分な力を発揮することができないのです。

 

チェリー:「コーチングの前に組織開発」、ということですね。

 

典生: 自分でもそうしたことを学習して、組織開発の仕事に並行して取り組むようになりました。野球やサッカーツだったらポジションの適性を考えるのは当然なのに、ビジネスの組織はそこが緩いことが珍しくないのです。

 

チェリー:本日は、コーチングによる経営者の変化と、経営者が「自分の役割」を認識する大切さについてのお話を中心に伺いました。

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